「そういや芹沢局長はあれや。しばらく大阪に行く言うとったで!」


芹沢の予定など全く知らない。だが、一刻も早く、そしてできるだけ長くお梅を屯所に近寄らせないために楓は大嘘をついた。


(これがうちにできるせいいっぱいや。この人は女の嫌な勘が働くからなぁ…。ばれるやろか?)


楓は嘘がばれた時の言い訳を必死で考えていたが、お梅の一言でその努力は水の泡となる。


「知っとるで?昨日沖田さんも言うてはったけど、まだいるんじゃないかと思って訪ねてみればこの始末。
どうやらもう出て行かれたようやなぁ…」


「…総司も言うとったんか?」


「そうやで?昨日壬生寺で楓はんと同じこと言うてはったんよ?」



(…)

「さよか。ならうち等が言った通りや。芹沢局長ならさっき発った。
残念やけど、また半月後くらいに来てや」


「ふ〜ん?じゃあ芹沢はんが帰ってくるまでは楓はんがうちの相手してくれはるんやろ?」


「……どうだかなぁ。アンタわがままやし」

「まぁひどい子やわぁ!」

お梅はさっきとは打って変わって艶やかな含み笑いを浮かべた。


「ほな、また来ますぅ」



「…ああ、またな」


お梅は楓に向けて高々と手を振って去って行った。

楓もお梅の姿が見えなくなるまで小さく手を振り続けた。





「あんただけでも生きなあかんで」



誰にも聞こえないように小さな声で願い事を唱え、楓は屯所の門を潜った。