「あれ、芹沢局長の妾さんじゃないかい?」
「…なに?」
楓は眉を顰め、永倉の指す方向を目で辿る。
すると、門の前には綺麗な藤色の着物を着た女性が立っていた。
どうやら、中に入りたがっている様子だが、門番によって阻止されてしまったようだ。
「…お梅さん?!」
見覚えのある仕草や背丈から楓はすぐにお梅だとわかった。
お梅と思しき人物は、凝視している永倉と楓の視線に気がついたようで顔をそちらに向ける。
「ああ!楓はん!!」
「…うん?楓知り合いだったの??」
「まぁ知り合いっちゃ知り合いやな」
楓はお梅の方に急ぎ足で近づいてゆく。
「偶然やなぁ。お仕事どすか?」
「まあな。んで、お梅さんはこんな所で何しとるん?」
お梅と楓は屯所の門の前で向かい合わせになる形で喋っている。
「聞いてくれはります?!うちが芹沢はんに合おう思たら門前払いや!いつもなら入れてくれはるのに今日に限って何で駄目なん?!!」
相当頭にきているようで、お梅は顔を紅潮させ、いつもよりも早口で楓に愚痴を言う。
(…ついに動き出したわけか)
お梅の話しを聞いた楓の頭の中では様々な憶測が駆け巡っていた。
しかし、どんな憶測を立てようと所詮憶測の域を超えることはできない。
今の楓に出来ることは一つだけ。