「……足掻こうとはせんのですか?」


「…楓よぉ。
以前に“生きるためならどんな鬼にでもなる”と言っておったな。
確かにそれも一つの路だ。だが、武士とは実に滑稽な生き物でな。
その先にどんなことがあろうと、自分の歩む路を変えることはしない。自分の選んだ路で起きる出来事も結局は自分で選んだものだからだ。
決して背を向けない。
背を向けた瞬間、今までの自分の人生を否定することになるからだ」



「……うちには解らん」


「解らんでも良いのだ。
男とは所詮“美”を追求する愚かな生き物よ。
生きて残す“証”もあるが、死んで残す“証”もあるんだよ。
かといって、むざむざ殺される気は微塵もないけどな!!この身が朽ち果てるまで立ち向かってやるさ!がはははは!!」



「ふっ…。お梅さんのこと、確かに頼まれたで」



「うむ。お前はいい女だ。
赤城楓」



――芹沢は全てわかっていて逃げないのだ

足掻こうと思えばいくらだって逃げ道はあった。



だが彼は自分の路と真っ向から対峙すると決めたのだ。


(死んだら何が残るいうんや?)


楓には納得がいかなかった。


そのもやもやした気持ちを抱えたまま、芹沢と別れた。


楓は自分の部屋に戻り、芹沢の隊服が入った風呂敷包みを箪笥の奥の方に入れ、夜の巡回のための準備に取り掛かった。