土方の部屋を出た楓は、屯所の表玄関に人だかりが出来ているのに気がつく。

そして、その人だかりの視線は壁に貼ってある大きな紙に向けられていた。

(なんや?)


楓も紙に書いてある内容が気になったため、近づいてみる。

しかし、背の低い楓にはなかなか内容までは見えない。



「局……中…法………度…?」


辛うじて見えた文字を声に出してみる。


「土方さんの考案らしいぜ?
ここに書いてある五箇条、一つでも破ったら切腹だってさ」

背後の頭上からいきなり声がした。
楓は後ろの人物を振り返る。

「お!新八かぁ!!悪いんやけど、書いてあること全部読んでくれへん?見えへんのや」

「ははは!お前ちっちゃいからなぁ。

一、士道ニ背キ間敷事
一、局ヲ脱スルヲ不許
一、勝手ニ金策致不可
一、勝手ニ訴訟取扱不可
一、私ノ闘争ヲ不許

右条々相背候者切腹申付ベク候也

だってよ」

永倉が読んだ内容を聞いて楓は、先刻の土方との最後の会話で引っかかったモノの正体がわかってしまった。



(なるほど…な)


楓の中で結論が出た。

「新八、おおきに。
あ!それとうち今日から二番隊に配属されたからよろしゅうな!」

さらっと重大なことを言った楓に永倉は蒼ざめる。


「お…お前……それ本気で言ってんの?」

「冗談やと思うんなら副長に聞きにいったらええ」



「………嫌だーーッ!!!」


永倉はこの日ほど、これが夢であって欲しいと願ったことは無かった。



――文久三年 九月十三日 局中法度施行