「暑い」



八月も終わりに近づいているというのにとても暑い夜。

寝静まった京の町を白い着流しに下駄という軽装で歩く者が一人。

夏独特の草のにおいを嗅ぎながらしばらく歩いていた。

足元も見えないほどの闇の中、
頼りになるのは聴覚と嗅覚。


最初の異変に気がついたのは嗅覚であった。


「今は嗅ぎたくない臭いだな…」



ぼやきつつ臭いのする方向へ歩を
進める。

むせ返るような鉄の臭い。



血だ。