一体どんな人間だったんだろう?


どこに住んでいるんだろう?


誕生日は?

年齢は?

家族は?

何も思い出せない。


なにもわからない。




この場所がどこかすらわからない不安。


自分が何者かすらわからない恐怖。


一気に呑み込まれそうになった。





何も覚えていない
何持っていない


大体自分は本当に存在しているのだろうか?




もしかしたら幽霊かもしれない。



そんな悪い考えが頭をよぎる。



そんな事を思うと更に怖くなった。



なんでもいいから、私に今まで存在していたというか証を…

今存在している証を…

どんなに微かなものでもいいから。







そう願った時。





ブワァッ



『キャッ…』



強い風が一気に吹き抜けた。



草花も共に舞い散る。



『…あ』


でもそんな私にも懐かしいと思えるモノがあった。







『この…花…。知ってる』




何も覚えていない筈なのに、


懐かしい



そう感じた。





何も知らない筈なのに、


愛しい


そう思えた。







そっと地面に咲いてる花に触れてみた。


何故だかわからないけど、何か無性に触れたくなった。


その白くとても小さな花は凛と姿勢よく、上を向いている。