「え…俺の名前は榊総護だけど…」
「榊…総護」
彼女はそう復唱し、考え込むように口元に手をやった。
“私あなたの知り合いですか?”
何だその質問…。
てゆうかむしろこっちが聞きたい。
私…あなたの知り合いですか?…って
自分の知り合いを知らない?
そしてふと気がついた。
ある考えが頭をよぎる。
「お前もしかして…
記憶がないのか?」
彼女は俺を掴んでいた手を、力無く放す。
そして目を伏せ、ゆっくりと頷いた。
マジ…かよ。
驚愕した。
「自分が誰なのかもか?」
彼女は再び頷く。
「どうしてここにいるのかも?」
彼女は黙った。
ただうつむき、肩を震わせている。
「…っ」
…泣いているのか?
しゃがみ、彼女と同じ目線になる。
「何もっ…覚えてないの」
とても小さくて震えてる声。
「気…付いたらっ…此処にいて…覚えてるのは名前だけ」
彼女の話を何も言わず、聞く。
涙を流しながらも絞り出すように話す彼女は、とても弱くて小さく見えた。
気が付いたらこんな所にいて。
一人で寂しくて、
不安て、
怖かったんだろうな。
「…不安だったろ」
気付いたら俺は頭をぽんぽんと撫でていた。
彼女の姿を見てそうせずにはいられなくなった。
