天使と野獣


この安本もその内にはあいつらを紹介して、
自分で買いに行かせるつもりだったのだ。

京介には増田の正体が見えた。


親切そうな顔をして近付き、
チーズと言うとんでもないモノをさり気なく渡し、

その虜になるように操縦し、破滅へと向かわせる。

とんでもない悪人だ。



「安本、チーズのことは警察も動き始めている。
お前の名前もその内に上がるかも知れない。

だけど心配するな。
お前は被害者だ。
何かあれば俺が証人になってやる。

そんな事は気にしないで大学入試を頑張れ。
お前はそのために塾へ通って頑張っていたのだろう。 

とても俺には真似は出来ないが… 
とにかく目標を掴め。」



京介にしてみれば精一杯の慰めと励ましのつもりだった。

しかし、安本は肩を震わせて泣き出した。

メガネをはずして… 
本格的に泣き出している。

それには京介が驚いた。

今まで自分の前で、
こんな風に泣いたのは見たことがなかった。

涙とは… 
男なら隠れて泣くものだ、と思っていた。



「駄目なのだ、東条。
僕の頭は… いくら勉強しても頭に入らなくなってしまった。

初めは気分良く勉強できたが… 
二学期の後半から自分の脳細胞では無くなった。

死にたい気分だよ。」



それでクラスのやつら、成績が悪かった、とか言っていたのか。 

もう中毒が始まっているのか。


何と言えば良いのか分からない… 

となれば京介の頭に浮かぶのは
父の顔しかなかった。



「心配するな。俺の父は
人脈のある医者だから相談してみる。

今晩は、この間転落死した吉岡の通夜に行くから、
その後で聞いてみよう。

心細かったら一緒に来るか。

勉強が手につかないのなら今の内に
今後の対策を考えておくのも悪くは無い。」



そう話していると安本は
意外そうな顔をして京介を見た。