天使と野獣


「安本、お前チーズをやっているのか。」



その京介の単刀直入な問い掛けに… 

安本の表情が見る見るうちに蒼ざめてきた。

目が踊り、焦点なく動き回り、
京介と眼を合わさないように顔をそむけている。



「安本、本当の事を話せ。増田から買ったのか。」


「東条、お前… 」



的中したようだ。

京介が増田の名前を出すと、
安本は怯えた目をしながら顔を上げた。

その顔は、泣きそうな目には涙の膜が張られている。

後一歩で涙となって落ちそうだ。
いや、すぐそうなった。

ぐったりとした様子で焼却炉にもたれかかり、

まさに後悔の涙を流している。



「何故そんなものに手を出したのだ。
増田に脅されたのか。」



その言葉に安本はしばらく考えていた。

すぐには声にならなかったようだ。

そして観念したように涙を拭ってから話し始めた。



「そうじゃあない。
初めは… 二年生の秋、
生徒会長になっていろいろ仕事が増え… 

だけどそれは自分で選んだ事だから嫌いではなかった。

その内に、雑用が多くて勉強する時間が削られ,
塾での成績が下がった。

君はどう思っているか知らないが、
僕にとっては学校の勉強より塾の勉強が大切だった。

しかし学校ではそんな顔は見せられなかった。

それがいつの間にかストレスになっていたのだと思う。

焦りと不安で夜眠れなくなり、
傍目にも疲労の様相だったのだろう。

そんな時に増田が… 」



確かに京介には
塾、塾、と言って騒いでいる学生たちの心理は全く分かっていない。