天使と野獣


「そうですか。
先生、落ち込んだ奴が行きそうな場所、知りませんか。」



机に教科書が残っている以上、帰ったと言う事は無い。

保健室以外一人でポーっとする所は… 

京介には見当がつかなかった。


それで自分より長年ここにいて、

心身ともに病んだ生徒と付き合っている田中教諭なら

何か心当たりがあるかも知れない、
と思って尋ねたのだ。



「そうねえ… 屋上か焼却炉の裏辺りかしら。

でも、今屋上へは行かれないわよ。
知っているでしょ。」



どう考えても、これは
受験に行って成績の振るわなかった安本を、
友達が心配して探している、

この時期には良くあるシーンだ。


それにしても、
担任を担任とも思わないような口調で
食って掛かっていたこの東条京介が、

安本輝明の事を案じているとは… 

教諭として,とても温かいモノを見たような気持ちだった。


そう、田中はとても感激している。


そして、その京介の頭の中は… 

言われて見れば屋上なら分る。
だが、屋上は吉岡の転落死以後は立ち入り禁止。

それなら… 京介は
小太りの田中教諭に丁寧に礼を言って校庭に出た。




案の定、安本は大きな焼却炉に持たれかけて
ボーとした様子で空を見ていた。

心に穴が空いたような顔をしている。



「安本、聞きたいことがある。」



その京介の声で驚いたように振り返り、

そこに立っているのが東条京介だと知って戸惑いの色を浮かべた。



「東条… こんな時間まで学校にいるとは
珍しいじゃあないか。」



安本は必死に体裁を保とうとしている。