後に残ったクラスメートたちはわけも分らず、
その事で興奮している。
級友の安本の事を探していると言う事も不可解だが、
安本と言う奴、などと
安本の事を知らないような言い方をした東条京介に。
こんな現象に興味を抱かなくてどうする。
「今、東条君、安本君の事を知らないような言い方だったわね。
それに何の用かしら。」
「そうだよな。東条が安本の居所を俺たちに聞いてきたなんて有り得ない。
一体何があるのだ。」
「でも、東条君って私たちの事だって知らないって言いそうね。
だって話したこと無いもの。
あんなきれいな声をしているなんて知らなかったわ。」
安本だけではなく、
三年生のクラスの大半は進学が決まる最後の時期、
同じようにストレスを抱えていた。
自習… 自分の好きな勉強をする絶好の時間だった。
そのはずだったが…
京介の奇想な行動を目にして、
無意識によその世界に入っていた。
その頃京介は保健室の前に来ていた。
が、中を覗いてもベッドの上には誰もいなく、
保健教諭の田中良子が一人なにやら書き込みをしていた。
「先生、安本と言う奴が来なかったですか。」
京介は初めて
大人の教諭に生徒らしい言葉使いで、
安本の行方を尋ねた。
「あら、東条君、どうしたの。
誰も来なかったわよ。」
この田中教諭も京介が職員室で、
担任の高木と卒業式の事でやり合ったのを見ていた一人だった。
あの時はすごい剣幕で高木に食って掛かっていたが…
今のきちんとした態度に分けも無く嬉しくなり、
愛想の良い返事を返した。

