それで結局、
東条は恐ろしいが、
いない所でなら何をやっても勝手だ、
と言わんばかりの説を打ち立てて行動することにした。
「一度、原宿で見た。なあ。」
と、川本が渡辺の顔を見ながら言った。
「あ、そうだ。いつかの夜、原宿から青山通りの方へ向かって歩いていた。
何か洒落たジャケットを着て雰囲気が違っていたが…
一人だった。」
渡辺も目的が出来、
何となく活力が沸いているような声を出している。
「そう言えば、今の東条の話でも原宿とか青山通りと言うのが出た。
おい、渡辺、増田の住所分かるか。
そっちは夜のほうがいいだろうからまずは家を見ておこう。
ひょっとしたら今頃は家に帰っているかも知れんぞ。」
再び教室に現われた京介を、
自習と言われて自分に必要な勉強をしていたクラスメート達は、
驚きと共に呆れた顔をして見ている。
京介はそんな視線は無関係、とばかりに弁当を広げて食べ始めた。
まだ昼休みのチャイムは鳴っていない。
何故、まず弁当を食べているかと言えば…
目的の安本の姿が見えなかったからだ。
机の上に歴史の教科書が置いてある、
多分トイレだろう。
それで京介は、
まだ弁当を食べていない事に気づき、
慌てて食べ始めたと言う事だ。
誰に言われたと言うものではないが、
とにかく、京介にとって父の弁当は学校で食べるべきもの、
と言う観念があった。
しかし… 安本は
京介が弁当を食べ終えても戻って来なかった。
初めは腹の調子でも悪いのか、と思っていたが、
それにしてもあまりにも遅い。

