天使と野獣


「東条、お前、まさか… 」



京介の真面目な様子… 
何となく事態が把握できた望月たちは、
 
あまりにも現実離れした、
いや、呆れた実態に、
お互いに顔を見合わせ唖然としている。




「東条さんの席の斜め後ろの眼鏡の奴ですよ。」



京介の席は廊下側の後ろから三番目、と言うことは… 

しかし何故よそのクラスの渡辺が俺の席を、

というような顔をして
説明してくれた渡辺三郎を見た京介だ。



「そうか、わかった。恩に着る。
後でのぞいて来よう。」



そう言うと京介は立ち上がり、

公園の入り口の木の下にきちんと立てかけてあった鞄を持って
学校の方へ歩き出した。

が、何かを思い出したように振り返った。




「おい、お前達は余計な事をするなよ。
特に俺が増田に目をつけている事をあいつに知られるな。

望月、お前と一組の渡辺、お前達は気をつけろ。」



さんざん脅し、予想以上の情報を出した提供者たちに… 
京介はもっともらしい言葉を投げた。




「望月さん、俺たちの名前は覚えたみたいですね。」



覚えられて嬉しいのか迷惑なことなのかはっきりしないが… 

とにかく、ここに来て、望月と渡辺の名前と顔は覚えたようだ。



「ああ… あいつ、ちょっとおかしいのか。
イメージが違った。」


「だけどメチャ、強かったですよ。
二重人格者ですかね。」


「あの眼… 恐ろしかった。
あんな奴とは知らなかった。」


「人間の皮を被った獣、という感じだった。」



京介の姿が消えると、
みんな地面に座ったまま、
今、いきなり自分たちに降りかかった、

火の粉どころではない衝撃を思い出している。


こんな事は初めての事だった。