「東条、お前、進路相談も一度もしていないぞ。
親父さんに伝えているのか。
お前、将来は何になりたいのだ。」
父親が医者と言う事は分っている。
こいつは勉強する気が無いようだから大学の心配は無い、と思ってはいるが…
体育祭や文化祭、遠足や修学旅行も参加した事が無い。
しかし、まともに授業を受けていないのに追試を受けさせれば合格点を取る。
全く分らない奴だ、と常々思っていた。
別に授業の妨げをして皆に迷惑を掛ける不良ではなかったから、
何となく放任してしまったが…
高木はこうして職員室に呼ばれていると言うのに、全く物怖じせず、
話が気に入らないと言って文句のように、
条件を要求している東条京介という学生に興味を持った。
いや、それどころかこの雰囲気では、
押しの強い東条京介に押し切られそうだ。
そういえば、今までこいつとまともに話をした事が無かった。
条件… この場でそんな言葉を出すとは…
何を考えているのかさっぱり分らん。
「条件を出す前に聞いておきたい。お前の将来の夢は何だ。
それと、何故そんなに卒業式にこだわるのだ。
普段のお前なら留年も退学も同じだろう。」
高木は京介がどんな返事をするか楽しみになっている。
「勿論俺はどっちでもいいが…
卒業式に来るのを父が楽しみにしている。
父の楽しみを奪うわけには行かない。
父は俺の為に文京区に引越しをした。
卒業式に出るために引越しをしたようなものだから叶えさせたいと思っている。
だから留年は困る。進路は…
まともに考えたことは無いが、
高校が終われば用心棒でもしようと思っている。」
「用心棒… そんな職業があるのか。
学校にはそんな募集は来ていないぞ。」
用心棒… 警備員ならあるが、時代劇でもあるまいし…
こいつは俺をおちょくっているのか。
そんな心を抱きながら高木は京介を見ている。

