天使と野獣


「そう言えば… 今思えば確かに、
どこかこそこそとしたところがありましたよ、望月さん。」



そう言って望月と京介を見ながら声を出したのは、

一組の教室で増田と話していた、
黄色のTシャツを着た渡辺三郎だった。



「本当か。渡辺は同じクラスだからなあ。
知っていることがあるのか。」



確かに望月は何も気がついていなかったようだ。

その証拠に渡辺の言葉に一番早くに反応した。


京介は黙ってその場の会話に耳を傾けている。
仲間内の方が話も出易いものだ。



「いえ、知っているとまでは… 
でも、一学期の後半ぐらいから
時々教室を抜け出していましたよ。

俺はてっきり望月さんの所へ行ったのか、と思っていました。

だから山田に、何か連絡があったのかと聞いたけど、
何も無かったと言っていた。
どこへ行ったのかと思ったことが度々ありました。

あるとき、いきなり姿がみえなくなったから、
戻って来た増田に聞けば、あの時は、
望月さんに話があった、と言っていました。」


「俺はあいつ一人に声をかけることはしないし、
あいつと二人で会った事も無いぞ。」



望月が京介を意識しているのか、
自分の無関係さを声を上げて主張しているような顔をしている。



「わかっていますよ。
だから、あいつ、おとなしいから、

気に入った女でも出来て見に行っていたのか、
と思って何も言わなかったですけどね。」



渡辺なりに感じていた事を口にしている。



「そう言えば… 俺も見たなあ。

二学期の始まった頃だったか、
あいつが二年生とこそこそ話をしていた。
だけど俺が近付いたらすぐ分かれてしまった。

どうした、と聞いたら、
落し物を二年生が届けてくれた、と言っていたが… 」



と、四組の大下和夫という子分が思い出した。