天使と野獣


「知らん… 本当だ。あいつは… 」



そこまで言うと望月は慌てて口を閉ざした。



「あいつは何だ。その続きを言え。
番長面して傍若無人に振舞っていたお前の子分の事だ。
さっさと言え。」



気短な態度で、

京介はやっと体を起こした望月の顔面にまたパンチを加えた。

その乱暴なやり方に子分達は完全に怯えている。



「増田は俺たちの仲間じゃあない。」



鼻血を流して再度倒れた望月を見て、

子分の一人が泣き声で叫んだ。


それまでは不良として学校では恐れられていたが、

そんな見栄はどこかに吹っ飛んでいる。


他にも恐ろしい奴はいるが… 

こんな乱暴な奴はいない、とその顔は言っている。


京介はその瞬間、
その声の主を、その鋭い眼差しのまま見た。

が、そいつは開いた唇をわなわなと震わせているだけで、

次の言葉は無く、
殴られると思っているのか目を閉じている。



「東条、止めろ、止めてくれ… 」



望月が隣にいた子分からバンダナのようなものを渡され、

鼻血を拭きながら必死な声を出した。



「そいつの言うとおりだ。
増田は俺たちの仲間のように振舞っていただけで
仲間ではない。本当だ。」


「何だと… どういう意味だ。」


「今だって、一緒に校門は出たが… 
どこへ行ったのかは知らん。

あいつには危ない雰囲気がある。

が、仲間の振りをさせてやれば小遣いをくれるから、
好きにさせていた。それだけだ。

お前、何故あいつを。」



今度は、やられっぱなしの望月だが

京介の行動に不審を持った。