天使と野獣


「東条、いつまでもそんなところで何をしているのだ。
早く席に着け。」



やっと教室に現われた担任が、
廊下に出て隣のクラスを見ている
京介に声をかけた。



「先生、急用を思い出したから、
俺、抜けさせてもらいます。」



抜けさせてもらう… 
そう言ったかと思えば、

鞄を持つために教室へ戻り、
そのまま校門へと向かっている

京介の姿をクラスメート達はただ見送っている。

全くおかしな奴だ。

しかし、この場にいても… 
あいつの試験は終わっている。


どう見ても来週の合格発表を、
藁にもすがる思いで待っている
受験生の姿ではない。

試験を受けにさえ行けば、
受かったと思い込んでいるのか。

いや、既に諦めて留年を受け入れているのかも知れない。

だから今さら授業数など関係ない、と、
あんな態度をしているのだろう。


担任の高木、今さらながらに

東条京介の勝手な行動に戸惑っている。


しかし、学校を抜け出した東条の行動は、

何をしているのかは知らないが、
学校にとって何も害は無い。


これ以上世間を騒がすような事は
絶対に避けなければならない。


幸いうちのクラスには、
あの望月の不良グループに関っている生徒も一人もいない。

東条京介と言うつかみ所の無い生徒は一人いるが… 

この件について問題は無さそうだ。