天使と野獣


余計な事を言って… 
ひょっとしたら、うるさい、と
殴られるかも知れない、と思いながら

どうしても気になった直道は覚悟して聞いてみた。


しかし、京介の反応は… 

直道を見つめる眼差しは冷たいものに変わっているが、

それだけだった。



「おかしいか。
後で分った事だが、あの吉岡は
父と同じ病院で働いている人の息子だった。

警察も事故死ではなく
殺意のある落下死として捜査を始めている。

これはまだ発表されていないから他言無用だぞ。

だから俺は吉岡の無念を晴らしてやろうと思っている。

お前、チーズという違法ドラッグの事を知っているか。
吉岡は関係無いが
あの二人は常習犯だった。

昨日、俺は二人の後をつけて現場を目撃した。」


「京介さん… そんな事は警察に任せないと… 」



無念を晴らす… 
違法ドラッグ… 
目撃… 


直道はまさに想定外の話を聞き、
動転した顔をしている。

そんなこと、考えても見なかった。

京介が強いことは分かっているが… 
どう考えても違う世界の事だ。


そんなことは自分たちには関係ない。
警察の仕事だ。



「駄目ですよ、京介さん。
いいですか、お父さんだけではなく

相馬先生を初め道場の皆が京介さんを頼りに、
いえ、信頼を置いている京介さんが

そんな違法薬物などに関っては心配で堪りません。
絶対に駄目です。」



と、直道は急に真剣な顔をして
京介に突っかかって来た。



「お前… いきなりどうした。
心配するな。これは父も認めてくれた。」



その時の直道は急に京介より大人に見える。