「京ちゃん… ああ、どうしよう。
血がこんなに… 早くお医者へ行きましょう。」



幸い、京介が不覚にも受けた傷は直角に刺されたのではなく、

一瞬の動きに呼応した切り傷、

刃物がドスとも呼ばれている鋭利なものだけに
出血は目立ったが、
命に関わるものではない。


しかしその出血に狼狽したさくらは、
涙を流しながら取り乱している。


自分の為に… と悔いても悔い足りない気持だ。


そんなさくらを尻目に、
京介は自分の学生服を脱ぎ、
中に着ていたTシャツを自分の腹に巻きつけ、

そしてまた学生服を着た。



「さくらさん、傷口を縫わないといけないから家に帰るよ。
悪いけど一人にしてもいい。

俺のことは気にしなくても大丈夫だからね。」



そう言いながら、京介はさくらの店のバーテンに連絡して、

さくらを迎えに来るように言い、

自分はタクシーで家に戻った。


男として、
さくらの前では負傷者の振りは出来なかったが、

やっぱり痛かった。


そして、こんなところは父にも見せられなかった。


とにかく父が戻る前に傷をふさがなくては… 

外科で使う道具は、長年外科医をしているお陰で、

栄の古いものが家にある事は知っていた。



そう思いながら京介は家に入った。


急いで父のモノを取り出して、
まず時代劇で見たように

台所にあった酒で傷口を洗い、
我流で何とか傷口はふさいだ。


初めての上に我流だから、
とても医者には見せられないが、

とにかく痛さに耐えながら傷口はふさいだ。


こういうところも並みの少年には無い特異なところだ。