「はい。僕たちで待ちますから大丈夫です。
京介さん、来てくれて、
すごい技を見せてくれてありがとうございました。」
と、山下も自己アピールではないが、
はっきりと言葉に出して京介を見ている。
やはりその顔も誇らしげだ。
学校では何もしない不思議な存在の京介だが、
こうして好きな空手に関することではフットワークも軽やかだ。
もっとも彼らのように
学校でも空手部、というような事は全く頭に無い。
優勝とかの順位は,母がいて喜んでくれるからこそ、
今はただ目の前の敵と戦うこと、
刺激に伴う喜びを見出しているだけだった。
「京介、この正月はどこへ行く。
スキーがいいな。」
京介がスキーを楽しんでいる間、
自分は温泉、と決め込んでいる栄、
12月の半ばになると、毎年行き先を考えている。
もっと早くから予定を立てる人が多いだろうが、
人間相手の医者にとってはそれがせいぜいだ。
それでも栄は、普段は忙しくても、
夏休みと冬休みは十分な休みをとり、
一人息子との旅行を好例としている。
家にいるのが分れば、亡き妻の妹、三越さと子が
それなりのおせち料理を用意してくれるが…
栄と京介は二人だけの時間を楽しみたいタイプだった。
一応,京介は受験生だが…
相変わらず飄々とした様子で暮らしているから、
栄も、わかってはいても声を出してしまった。

