「俺の父は外科医で人間の体に精通している。
俺も時々話を聞かされている。
こういう時はこの辺りを触って骨折しているかどうかを調べるのだ。」
と、もっともらしく返事をした京介だ。
が、実際は、町を徘徊しては喧嘩をしていた京介、
ちょっとした怪我は日常茶飯事だった。
栄はそのたびに京介の体を触りまくり、
痛い、と言っても手を休める事無く触診して、
医術の話を京介に聞かせていた。
そのお陰で、
今になれば、何となく体の仕組みは分っている京介だった。
「すごい… それで師範代は。」
そんなことなど想像すらしない高橋、
実際は同じ道場にいても、
会話すらまともにしたことなど無かったのだが、
今は当然のように後輩として、
その場にいる者たちの年長者として、
京介の動きを羨望の眼差しで見つめながら声を出している。
「多分肋骨だ。
肋骨のどこかを折られたかひびを入れられたようだ。
この辺りを触ると痛そうな顔になるだろ。
しばらくは大変だ。
芳川さんは痛みさえ抜ければ大丈夫だと思う。
お前、まだいいのか。
十時になるからもう皆帰れ。
俺が後始末はする。」
京介はすっかり貫禄を出した言葉を言っている。
「でも… すみません、僕、忘れていました。
京介さんは受験生だという事を…
僕と山下で先生が戻るのを待ちますから、
京介さんは受験勉強に戻ってください。」
と、高橋は、初めて京介とこういう風に言葉を交わしたことが
嬉しいというような顔をして、
高一の山下徹の顔を見た。
こうして見比べれば、京介の方が幾分背こそ高いが、
全体の雰囲気では高橋の方が年上に見える。

