天使と野獣


式場には負傷して
包帯が痛々しい望月たちも出席していたが、

自分の世界に入っていた京介は、

いくら遠慮がちに、彼らから合図されても… 

いつものように全く眼中にはなかった。




「京ちゃん、立派だったわよ。
あんなにお澄ましした京ちゃん、
初めてみたわ。

皆が京ちゃんを褒めていた。
ねえ、お父さん。」



京介はさくらさんまで来る、と思えば… 

明治の少年剣士・剣二郎になったつもりで、

時間中、完全に自分を殺していた。

だから、どんな話があったのかも全く耳に入っていなかった。

しかし、そんなことで二人が喜んでくれるものなら、

安いものだと思う。



「ああ、おとなしくしていて… 
いい子だったぞ、京介。」



三人は式の後、銀座に出て食事をしている。

食事が終わる頃、
さくらさんは席を立ち、
つい数時間前に写した写真を持って戻って来た。



「そうか、ここに入る前に写真屋に行ったのか。」


「そうよ。今はデジタルだから一時間もあればこの通り。
お父さん、私、この二枚、貰っても良いですか。」



そう言ってさくらが見せたのは、

校門のところで写した家族写真のようなものと、

京介が証書を受け取って席に戻っている写真だった。



「それだけで良いのかね。」


「ええ。これから少しずつ増やします。」



そう言って、
さくらさんはとても良い笑顔を見せた。



「今度は4月2日だ。忘れるなよ。」



と、京介は東大の入学式の事を言っている。

学校なんてつまらない、と思っていたが、

こうして身内が喜んで来てくれるなら、
悪いものでもない。

静かにしていれば、
あんなに嬉しそうに褒めてくれる。

いままではこんな事、知らなかったが、

文京区に移ったおかげで父の希望通りになっている。

さくらさんも来てくれる。


そして、京介自身も、

何故か心が温かい。