光彦はドアを開けただけで、
何も言わず玄関横の自分の部屋に入って行った。
来訪者が隣の直道、
和美のところに来た、と言う事がわかり、
一応ドアを開けたようだ。
そんな光彦を気にする風もなく、
直道は勝手に上がって、
京介をその隣、和美の部屋に案内した。
和美はベッドに座り、
ベランダ越しに見える空を見ている。
それで京介は机のイスに、
直道は和美のベッドに、少し離れて座った。
部屋が狭いから、
男が二人立っていれば、余計に閉塞感が沸く。
二人の顔を見ても和美は無表情だ。
「和美、京介さんのこと、覚えているか。
屋上で会っただろ。」
直道の言葉に…
和美は何も反応しない。
まるで聞こえなかったかのように、
空の一点を見つめている。
が、その様子…
京介には精神を病んでいるようには見えない。
目や顔の筋肉、すべてが正常に機能している。
これは…
「あのチーズは、あいつのものだったのか。」
いきなり京介は,直道の想定外の言葉を出した。
その意味も、直道には分からなかった。
しかし、和美は両手を堅く握り締め、
感情を抑えているようだ。
そう、明らかに京介の言葉に反応している。
「京介さん、チーズって…
あのことは解決済みでしょう。」
確かにまだ、週刊誌の類が時には書いているが、
普通にはすっかり影を潜めてしまった事件だ。
新しい凶悪事件が次から次にと起き、
一般民間人が目にし、耳にする事件が多すぎる。
自分たちの高校の事であっても…
大半の学生の意識は次の関心ごとに移っている。
直道のように、
吉岡とかなり近い存在であっても、
意識の中では事件は解決していた。

