天使と野獣


「コンクリート詰め… ひどい事をする奴等だ。
父さん、どうする。

早く出してやるにはどうしたら良いのだ。

機械など待っていられないだろう。」



とにかく京介にとっては父こそが人生の師、

自分は分らなくても父は何でも知っている最高の人だ。

警察の案など頭から消えている。



「そうだなあ。道々考えよう。
佐々木さん、わしたちをそこへ連れて行ってくれるかね。

今日は土曜か。先ず職場へ連絡をしておこう。」



話を聞いた時点で、
栄は初めからそうするつもりだったようだ。

京介が顔を洗っている間に本来の職場、
同じ文京区の病院へ連絡をいれ、

自分も顔を洗った。



「先生、車の中でこれを食べてください。」



二人が警察車両に乗り込もうとした時、

どこからか数人の男が現れ
栄に数個の握り飯を手渡した。

が、いち早く受け取ったのは隣に座っている京介だ。



「気が利くなあ。俺、腹ペコだ。
だけど、誰だ。」



京介は、この廃院の事は知らなかった。

父の事は全て知りたいと思うが、

父は自分と違ってやたらと知り合いが多い人。

とてもではないが、覚えるだけでも大変、
とにかく目に付いた事だけ、と決めていた。

今は、自分たちに握り飯をくれた人たちのことを聞いている。



「ここにいるボランティアだよ。

初めは患者だったホームレスだが、
行き場が無いという事と、気配りが出来る人柄を見込み、
ここで患者の世話をしてもらっている。

正式の看護師など雇えないから
出来ることを出来る者がする。

公には出来ないがまあ結構役に立っている。」



警察官が聞いているというのに、

栄は気付かぬ振りをして、
握り飯を頬張る京介に説明している。