天使と野獣


半ば燃え出していた棺の中に… 

母に抱かれるようにして眠っていた京介。


いや、正確に言えば… 

あの五年生の秋、京介は剣道大会で、
二年生から四年連続の優勝を果たした。

その褒美に、妻の希望で、

蔵にあった先祖の小刀を、
見栄え良く装飾しなおして、京介にやった。

もちろん京介は大喜びだった。

その直後に妻は死んだ。

そして棺の中の京介は、

その小刀を、いつでも抜けるように、柄に手をかけて、
母の胸で眠っていた。

母の行く手をさえぎる奴は、誰であろうと許さない、
という心がうかがえた。


妻の体は燃え始めていたが、

不思議と京介は無傷だった。


あの時初めて京介を殴り、

その後、あらん限りの力で抱きしめていた.


周りの者は,母親が守ってくれた、と騒いでいたが… 

あんな場面で眠っていた京介。

あんな高温の中で眠っていたなど考えられることではない。


その時、栄は神の心を受け取った。

京介は神が自分に与えてくれた天使の生まれ変わりに違いない。

ちょっと乱暴な天使だが… 

栄には目に入れても痛くない可愛い天使だ。


そして、そんなことがあったと言うのに、
何故か京介の記憶には残っていないようだ。