天使と野獣


チラッと中を見た。

十分前までは自分たちもいた部屋のはずだが… 

まるで竜巻にでも襲われたように、

ほとんどのものが粉々になり、

あったはずのベッドまで消えていた。


その乱雑な中に二人の姿は見えたが… 
確かに佐伯警部の安否が最優先、と思うことにした。

白状したと言うことなら、
死んだようにぐったりしているが
気絶しているだけだろう。

幸いこの人は医者だ。

自分たちはその雷雲と言う倉庫へ、と、

栄に言われるままに巡査を数名手配して
佐々木刑事を伴って飛び出した。



「京介、ひどくやったなあ。」



連絡を受けて駆けつけた巡査たちが、

廊下にいた六人の男たちを本部に連行している。


栄は静かになった、と
様子を見に下りて来た
ボランティア医師の若者に声をかけて、

室内を片付けながら京介に声をかけている。



「ほら、ここでしばらく休め。
清滝君、牛乳はあるかね。
こいつに飲ませてやってくれ。

その後二人でこの男たちを元に戻す。
こんなにボロボロでは大騒ぎになる。

まあ麻酔をしても騒ぐだろうが… 
君には良い人体勉強だ。」



栄はその宵、
この廃院に来ていた若い医師に手伝わせて、

京介が瀕死の重傷を負わせた男たちの
手当てをするようだ。



「でも… 先生、
この二人、内臓が破裂していますよ。

僕は外科の見習いですから… 」


「分っている。骨もボロボロだ.
とにかく骨折だけでも元に戻そう。

内臓など専門外だから放っておく。」



平然と言う栄だが… 

内心は隣で既に眠っている息子の所業に

驚愕の寒ささえ覚えている。