京介は可愛いが、
時々は暴れたい願望があるのだ。
卒業式の後、相馬氏が、
こいつの好むような闘い相手を見つけてくれていれば良いが、と、
中の音を聞きながら、
栄はそんな事を思っていた。
最近は、道場へ行っても
楽しみを見出せていないらしい。
京介が強くなり、
実力に差がありすぎるようだ。
特に年末からは、
珍しく家でおとなしくしていた。
受験勉強をしていた、と言う事だが…
なんにしても、
今の京介の前に出た者が不運、
としか言いようがないが、
いずれにしても哀れな事だ。
と、まるで第三者的に考え、
苦笑しているのが栄だ。
「彼は品川の辰野埠頭の雷雲と言う倉庫、
奴等の隠れ家だ。
その所有者も一味だ。」
京介はドアを開け、
感情を抑えた冷たい声で
必要なことだけ口にして栄を見つめている。
体内ではまだ野獣のエネルギーが暴れ回っているが、
それを悟られぬように、
敢えて何事も無かったような態度を見せている。
しかし息子のことを知り尽くしている栄には、
京介の状態が手に取るように伝わっている。
「そうか、良くやったな。
後始末はわしに任せろ。
刑事さん、あんた等は早くそこへ行きなさい。
この男たちは近くの巡査に連行させたらいい。
もう時間がかなり経っている。
一刻を争う状況かも知れんぞ。」
「はあ、しかし… 本部に連絡を入れましたから… 」
木頭は中の様子も気になり
なかなか足が動かない。

