天使と野獣


そして肝心の室内では… 



「止めろ、止めてくれ。
外には刑事もいるのだぞ。」



既にベッドまで倒され、
いろいろな物が散乱している室内で、

一人の男が、その野獣のターゲットになっている。

足が利かないのか、

右足を両手でかばいながら
必死の表情で床を這いつくばっている。

額には脂汗、いや、その目には、

いつもなら肩を怒らせ風を切って歩いていたであろう大柄な男が、
無意識だろうが涙さえ流している。

足の骨を折られた苦痛からだろうか。


もう一人の男は、
倒されたベッドの縁にしがみつくような格好で、

金縛りにでもあったような表情をして
小刻みに震えている。

良く見れば指の骨でも折られたのか
、だらりと宙に浮いている。


短時間でそんな残忍なことをしたのは… 

もちろん中に残った京介だ。


その時の京介は、

いつもの目元涼しい上品な美少年の京介ではない。

別に猛獣の姿に変身したのではないが、

ただその涼しげな目元が
怒りに燃えた虎のように輝き、

何ものでも貫き通すような鋭い眼差しでその獲物を見ている。


それは、手傷を負い、
野獣と化した虎が、

その手傷の原因となった獲物を
いたぶりながら餌食にしている、

そんな光景だ。



「今度は肋骨だ。」



そう言った瞬間、
京介の拳は男の胸元へ食い込んでいた。



「うぐっ。」



拳を食らった男は
言葉にならないような籠もった声を発して、

口から血を吐き出し、

踏み潰された蛙のように白眼をむき、

その場にひれ伏すように崩れ落ち、気を失ってしまった。

内臓のどこかもやられたようだ。