天使と野獣


「心配しなくてもいい。
すぐに京介があいつらから居所を聞きだす。

あんたらは警察官としてすべき事をしておいてくれ。」



すべき事… そうだ、
こんな状態では逃げられないだろうが
とにかく近くにいる六人の侵入者たちを… 

手錠が足りない分は他のものを代用して捕縛した。


ひとまずの安堵の気持ちから
二人の刑事は栄に話しかけている。

中の二人もその内に出て来るだろう。
そんな事を思っていた。




「うわあー。止めろ。ぎゃあっー。」



いきなり闇の空気を凍らすような悲鳴が起こった。



「何だ。中で何が起こったのだ。」



急いで中へ飛び込もうとした二人の刑事を、

栄は手にしていた杖をドアに掲げ、
その動きを制した。



「東条さん… 」



事態が把握出来ないまま
二人は怪訝そうな顔をして栄を見、

中の様子に神経を集中させている。



「今中へ入るのはまずい。
中には道を外した者を襲うことの大好きな野獣がいる。

下手に飛び込めば
お前さんたちもとばっちりをくう。

まあ、好きなだけ暴れさせれば気が済む。

あれ程の手傷を負っているから、
外見はともかく中味は荒れ狂っているはずだ。

こんな時に餌食になった奴は不運としか言いようが無いが、仕方がない。」



廊下では栄が、
刑事たちには理解できない様な言葉を出している。


中の様子から、中で起こっていることは何となくわかる。

しかし… この場合は、
みざる、きかざる、いわざる、式にしていたほうが無難のようだ。

それに… 本当に聞き出せるものなら、
警部の居所が分かれば、

多少の事など目をつむる。

二人は暗黙の内に心を決めた。