天使と野獣


「いたぞ。殺せ。今だ。」



京介の顔面が明かりで照らされた時を合図のように、

双方とも一斉に合図の声を、
誰が発したかは分らないが、

暗闇の静寂が一瞬にして破られた。



「待っていたぞ。」



まず侵入者たちを驚かせたのは、
夕方、仲間に拳銃で撃たれ、

瀕死の重傷で治療を受けたところの怪我人、
麻酔で眠っているはずの京介だ。


男の一人が殺そうと振りかざしたドスが、
胸元に迫ったその瞬間、

いきなり毛布の中から手が飛び出し、
その凶器を跳ね飛ばしたことだった。


と同時に部屋の明かりが赤々と点り、
室内の状況が明確になった。

電気など通っていない廃院と思っていた侵入者たちは、
それだけでまず度肝を抜かれた。

そしてそこには、
ベッドから起き出している、
重傷者のはずの高校生・京介が

ドスを振り下ろした男の腕を掴んで、
不敵な笑みを浮かべ立っている。


他にはドアと窓の近くに刑事が二人、

栄は、どこへ行ったのか姿が見えない。


とにかく相手は三人、と分った侵入者たちは
勝ち誇ったような顔をしている。

そしてすぐにもう三人の男たちが荒々しい足取りで入ってきた。



「たった八人か。甘く見たものだ。
まあ何人でも同じ事。」



京介はそんな余裕のある言葉を吐いている。


するといきなり、また電気が消え、暗闇の空間となった。

そして、それを合図のように、
京介は近くにいた男から襲い掛かっている。


その動きは、どこを怪我したのか、と思うほど早くて力強い。

いや、実際は見えないのだが、
動く気配で何となく分かる。


暗闇でも目が利く野獣がいるようだ。