天使と野獣


暗闇に囲まれた世界に車のライトが現れ、
建物の数メートル手前で消えた。

車は二台だ。

ということは、侵入者は多くて十人、
それ以上はあり得ない。

が、たかが高校生の怪我人を襲うにしては多すぎる。


考えられることは、

犯人たちがいかに必死になって
その目撃者【京介】の口を封じようとしている、と言うことだ。

本部への連絡では、ここにいるのは

患者と医者、それに連絡を入れた木等たち刑事二人だ。

もちろん神社を囲んでいる森や建物を遠巻きにして、
多くの刑事たちが待機している。

神社などは土地が広く隠れる場所は少ない。

おまけに廃墟となっている病院では、
人影があれば不自然となる。

犯人たちに気付かれないように、

刑事たちはかなりの距離を隔てて、

事の成り行きを見守ることしか出来なかった。




「来たぞ。父さん、早く隠れろ。」



ともすれば膨れ上がって来そうな感情の嵐を、
押し殺したような京介の声が、

固唾を呑んでその時を待っている刑事たちの耳に
はっきりと伝わって来る。



「ばか。わしの事など気にするな。

お前こそあいつらがこの部屋に入るまでは怪我人らしく動くなよ。

逃げられたら計画が狂うからな。」



二人は刑事たちの存在など全く眼中に無いように、

その時を楽しみに待っているような会話をしている。


ドアの陰と窓近くの壁際に隠れている刑事たちは、

その会話を聞きながら

いきなり冷水を浴びせられたような錯覚に陥った。