そして車はすぐに千駄木の廃院に着いた。
隣に神社があり、
廃院の横まで神社を囲っている林が続き、
暗い夜半ともなれば不気味さが漂っている。
千駄木から日暮里へと続く大通りは、
夜中でもひっきりなしに車が行き来している。
近くに大きな病院も固まっている。
救急車の音も途絶える事が無い。
それなのにここだけは全く別世界の様相だ。
「ここですか。なんだかあまり気持ちの良い所ではありませんね。
廃院と言うことですが持ち主はいるのでしょう。
勝手に中へ入っても良いものですか。」
ひとつの部屋に落ち着くと、
木頭が囁くように尋ねている。
「構わんよ。
この二部屋はわしが時々使っているからまともなものだ。
廊下の突き当りを右へ曲がった部屋に入ってくれ。
京介、とにかくお前の傷口をもう一度見せてくれ。
そこに上がって寝ろ。」
やはり栄にしても、
大切な息子の銃弾摘出を、
あのような簡単なところでした事で、
何がしか気になっているようだ。
腕には自信があるが…
ここには必要なものが揃っている。
この病院は元々栄の友人が経営していた。
しかし一年ほど前に跡継ぎのいない院長が急死し、
その妻に頼まれて後始末をしたのが栄だった。
その頃、路上生活者が相次いで襲われたり、
病で倒れたりした光景に出くわした栄。
仲間の医者達と協力して、
時間外に診察、治療に当たる場所として
この廃院の権利を手に入れていた。
内緒だが、
元々この辺りの土地は、栄の育ての親、
大工の父さんが終戦の混乱期に手に入れていたもので、
その院長に貸していたのだった。
だからトラブルなどあるはずも無い。

