結局、時間が惜しいと言うことで
栄の案を実行する事にした。
栄は、安本にタクシーで帰るように説得して、
管理人室でタクシーを待つように言っている。
時刻は既に十一時だ。
こんな時に勉強など手につかないだろうが、
栄の見た限り安本に何も問題は無さそうだった。
ただ自分に対する自信の無さから、
気持が不安になっているのだ。
一度ゆっくりと腹を割って、
家族と話せば良いだけのように感じられる。
「何かあったらいつでも来なさい。
こいつは当てにならなくてもわしが友達になる。」
などと冗談交じりの言葉まで出して、
佐々木の運転する覆面パトカーに乗り込んだ栄だ。
安本は、いつでも来なさい、と言ってくれた栄の言葉が嬉しい。
はっきり言えば、同級生の東条京介より、
このお父さんのほうに心が傾いている。
東条は… やはり、良く分からないところがあり、
何となく不気味に感じる。
多分、仲の良い友人にはなれないだろう。
そして警察官たちは…
東条栄の事を、
何となくすごい味方のように感じている。
この二人はまだ京介の暴れたところを見ていない。
そしてその京介も、
この父の不動の偉大さを改めて感じている。
喧嘩などしたことも無いだろうが、
知力と人間を知り尽くしている医者の誉れを感じる。
この場に応じて、ただの医者で、
警察さえ絡んでいるらしい、
と言う場面に、息子共々、犯人獲捕の強力を口にするとは。
刑事たちは栄を、
見かけは知的で温厚だが、
事と次第によっては阿修羅にもなりうる人のようだと思っている。

