天使と野獣


「冗談じゃあない。嫌だ。
俺は絶対に入院はしない。」



京介は病院で死んだ母の姿が忘れられない。

病院は病気を治す所、
と思っていたが、実際は多くの人が死んでいる。

見舞いはともかく、
自分が入るのは想定外だ。



「そうか、それなら仕方が無いな。
後で解熱剤を出すから
それで我慢するのだ。

安本君、こいつをわしの部屋へ運ぶのを手伝ってくれるかね。
あまり動かしたくないから一人では難しい。」



と、栄は立ち上がり、
和室に布団を敷き、
リビングで固まっている安本に声をかけた。


安本… その声で京介の頭は回転を始めた。



「安本、お前のチーズをくれ。」



その京介の声で
安本は戸惑った顔をして栄を見た。



「すみません… 僕、
ここへ来る前にトイレに… 」



学校で京介に言われ… 

自分でも将来的に不安を感じていた矢先だったから決心した。

思い切って東条とお父さんにすがろう、と。

それで八時と言う約束だったが、
一時間も前からマンションの前で待っていた。



「何だと。」



その瞬間京介の罵声が… 

それだけ痛みが激しいのだ、と言うことが伝わり、
申し訳ないような気持になっている安本。

アレなら確かに痛みも薄らぐだろう。



「馬鹿。京介、くだらん事を言うな。」



それまでは幼児のような表情だった京介の豹変に、

慌てて栄が制した。