里奈と会った次の日から「私」がもう一人増えた。


明るい「私」が。


パブの名前は「アルテミス」。
ここにもう一人の私がいる。


源氏名は「みちる」とママが名付けてくれた。
仕事を覚えるのが一杯で、余計なことを考えずに済んだ。
働き始めると毎日があっという間だった。


「みちるちゃん、お疲れ様。また明日ね。」


ビルを出て駅前通を歩き出す。
白い息があがって、思わず両手をこすり合わせる。


見上げても星ひとつない。



仕事が終わって、「みちる」を脱ぎ捨てると、
寂しい「伊織」が顔を出す。
この1ヶ月、ずっとそうだ。


どんなに仕事でお酒を飲んでも、
笑っても、雄一の事を思い出す。



会いたい



思うだけで、胸の奥が絞り上げられるようだった。



その時だった。


何かが思いっきりぶつかってきた。