先輩が、びっくりした顔で私を見てる。
どうしよう。
いきなりこんなことしちゃったのに、ますます話せなくなっちゃった。
こんな大事な時に、伝えられる言葉が出ない自分が嫌になった。
今までだって、どうして自分だけがしゃべれないんだろうっていつも悲しかったけど。
今ほど自分が嫌になったことはない、と思った。
先輩の手から自分の手をそっと離した。
目の前にある数学のノートに、涙がぽたりと落ちた。
その端っこに、シャープで小さく文字を書く。
『私も好きでした。でも、こんな私じゃ』
先輩の迷惑になりますって書こうとしたのに、最後まで書けなかった。
シャープを持つ手を、先輩が止めたから。
「なんで過去形? まだ知り合って2週間なのに、もう俺は過去の男?」
静かに、問いただされた。
ちょっと、怒ってるように見える。
「俺が好きになった子の悪口を書こうとしただろ?
そんなこと、許さない。
ホントに俺の事、過去の男にするつもり?」
ああ、先輩は本気で私の事を好きなんだっていうのが、伝わってきた。
私は静かに、首を横に振った……。