「菫、大事な話があるから顔を上げて欲しい」
静かに俺を見上げる、素直な彼女がいとおしい。
「大学の前期試験が終わって教育実習の単位が認定されたら、『松本菫』になって欲しい」
元々大きな目が、さらに大きく開かれた。
「お嫁さんに、なれるの?」
「そう。嫌じゃなければ、だけど」
「嫌なわけないもん!」
大きく首を何度も振られた。
「で、肝心の答えは?」
一応、ちゃんと返事をもらわねば。
泣き笑いの表情を浮かべた菫が、はっきりと言った。
「私は『松本菫』になりたいです!」
そして、俺にしがみついた。
菫の大好きな『はぐはぐ』をしながら、耳元で俺の決意を述べる。
「仮に、地球の裏側へ行くことになったとしても、菫を連れて行く。
これ以上離れていたら、菫が虎になってどこかへ逃げてしまうかも知れないだろ。
いつもの子犬のような菫も、虎になって吠える菫も、こうやって泣いてる菫も全部受け止めるから。
若奥さんの菫と、できればママになった菫と、いずれおばあちゃんになる菫、それも全て俺がもらう。
いいか?」
胸の中の菫が、こくりと頷いた。



