教育実習日誌〜先生と生徒の間〜


菫の話によると、家より下宿の方が落ち着くと答えていたらしい。


木内に必要なのは、おそらく静かに暮らせる環境だったのだろう。


吉川の家で、平穏に暮らすことができれば、緘黙の症状も少しは改善されるのではないだろうか?


そういう点に関しては、吉川の親父さんの方が当然詳しいだろうし、頼りになる義父となることだろう。



「息子からその話も聞いていました。

そのようなおとなしいお嬢さんにこんなことをするとは……我が息子ながら、本当に恥ずかしいです。

ただ、息子も美羽さんも、本気で付き合い始めてこうなったという点だけは、ほっとしました。

……レイプした訳ではなかった。愛し合って授かった子どもだったということ。

そして何よりも美羽さんが、妊娠の継続を心から望んでいたのが嬉しかったのです」



やはり、中絶を反対していると言っていた、吉川の言葉は本当だった。


しかし、何故?



「素朴な疑問なのですが、なぜまだ高校生の二人が妊娠を継続させたいと言った時、反対されなかったのですか?」


思い切って質問をぶつけてみると、吉川の親父さんは自嘲気味に話してくれた。



「まず、私自身に対する責任を痛感しましたから。

この仕事をしているというのに、息子には避妊の知識など何も教えてこなかった。

まだまだ子どもだと思っていましたし、ゆっくり話す時間もなかったんです。

今更言っても、もう遅いのですが……。

それともう一つ、こちらの理由の方が、ずっと大きいです。

松本先生、私が産婦人科医を目指したのは何故だと思いますか?」