自分でも、驚いた。


裕香が先生のことを『好きになりかけた』って聞いた時は、裕香に同情する気持ちの方が強かったのに。


今、こうして二人で並んで笑っているところを見てしまったら。


心穏やかではいられなかった。



自分にそんな気持ちがあるなんて、忘れていた。


先生は私を裏切るような真似はしないはず。


私だけを見てくれるって約束したもの、指輪と一緒に。



今は何もつけていない左手の薬指を、右手で包み込む。


私達の3年間……ううん、知り合ってからの4年間はそんなものじゃない。


先生はかなりの覚悟を決めて、私を恋人にしてくれた。



深呼吸しよう。


きっと、これからの授業のことで、ナーバスになっているだけ。


『山月記』の虎男と私、こんなところに共通点があったなんて。


指導案を書いているときは、彼に怒りしか感じなかったけれど、今は違う。



……きっと、誰もが彼と同じように、心の底に醜い虎を飼っている。


醜い虎を封じ込めて、表面上は穏やかに取り繕っているだけ。


ふとした不安や焦りを餌にして暴れ出す虎を抑えるために必要なのは。


人間としての理性と、自分自身を信じる強さだと、今やっと私なりの解釈を見つけた。



チャイムが鳴った。


私の公開授業が、これから始まる!