退院予定の木曜日は、吉川の親父さんが夕方迎えに来てくれることになったそうだ。
吉川の担任である数学科の大森先生にだけは、今回の事を伝えるからと話して了承を得た。
吉川の処遇は俺の管轄外だからなのだが、おそらく担任としても事を大きくはしないだろう。
退院する時、もう一度挨拶に来るからと伝えて、病室を後にした。
ナースステーションを通り過ぎてエレベーターホールへ向かう途中、思いがけない人に会った。
病室とは違うドアから出てきたのは、岡崎先生。
午後から年休を取って、ここに来ていたとは……。
向こうもすぐ俺に気づいたようだったが、逃げるようにどこかへ行ってしまった。
ん? 『年休』だったよな?
『病休』で処理しないなんてもったいないな、通院しているのに。
いや、誰かの見舞い?
もう一度、岡崎先生が出てきたドアのプレートを良く見てみる。
『IVF室』と書いてあった。
IVFって、何の略だ?
家に帰ってググってみようと思いつつ、エレベーターに乗る。
もしかしたら、見てはいけないものを見てしまったのだろうか?