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産婦人科病棟へ着いた。
あちこちで、新生児の泣き声が聞こえてくる。
個室の入口に立ち、手を消毒してからノックすると、中からお母さんらしき人の声が聞こえた。
「松本です。失礼します」
中は意外に広かった。
ソファーベッドと洗面所、机、それに風呂とトイレとキッチンもついているらしい。
多分、1泊1万円以上の差額ベッド料金がかかる部屋なんだろう。
部屋の奥へ入ると、少しベッドを起こした状態で寝ている木内と、すぐ横の椅子に腰かけたお母さんが見えた。
「先生、わざわざすみません」
「いえ、お気になさらず。それより、元気そうで良かったです」
お母さんに経過を説明してもらい、おそらくもう大丈夫だと診察された話を聞いてほっとした。
「それで、今後の事ですが……」
言いにくそうに、お母さんが切り出すと。
「先生、ごめんなさい。私、退学して赤ちゃんを産みます」
うつむいて、小さな声で木内が話した。
「謝ることはないよ。木内の人生だから。
今まで沢山悩んで出した結論だろ?
多分、そう言うと思って、実はもう持ってきたんだ」
カバンから『退学届』を出して渡した。
担任として、これを渡すことは辛い。
怠学や問題行動の場合は、全力で説得して思いとどまらせるのだが、今回は違う。
木内が選んだ道だから、これを渡しつつ応援することしかできない。



