「そうそう、これ、インクがなくなってたから新しいのを持ってきたのよね。
用事が済んだから、職員室へ帰りましょうね、安西先生」
ホワイトボードマーカーをペン立てに置いてから、私を出口へ誘導する。
そして竹森先生が一言。
「さて、安西先生のピンチは私が救ったし、これで一つ大きな貸しができたわね~。
そうだ! 松本先生に出世払いしてもらっちゃおうかしら~。ふふふっ」
へ?
一瞬、あっけにとられた私を引き連れて、竹森先生は準備室のドアを閉めた。
廊下を歩きながら、さっきの言葉の意味を考える。
何で、松本先生に出世払いさせるの?
まさか・・・・・・。
「うん、全部お見通し。あそこで冷や冷やしながら聞き耳立ててたんじゃない?」
そう言って指差したのは、すぐそばにある社会科準備室。
やっぱり、気づかれてたんだ・・・・・・。
でも、あんなに気を遣っていたのに、どうして?
私の疑問に答えるように、小さな声でそっと教えてくれたのは。
「大学院の研修を終えて担任を持ったばかりなのに、いきなり他教科の実習生を受け入れたから、何かあるのかなって思ったのよ。
で、受け入れた実習生の経歴を見たら、納得しちゃったの。
京都にいた頃の彼女なんだろうなって。違う?」
今度は首を横に振った。
「まあ、それだけじゃなくて、何となく雰囲気がね。
単なる在学中の教科担任っていうよりもっと、信頼関係があるように見えたから」
すごいです・・・・・・さすが先生が「一番頼りになる女の先生」だと言っただけのことはある!