口火を切ったのは、やっぱり片山さんだった。
「あたしもピアノやってるからわかるんだけどね、岡崎先生、岩谷先生に『大地讃頌(だいちさんしょう)』を初見で弾かせたっぽいの。
そりゃあ、緊張もしてるだろうし、元々結構難しい曲だから時々ミスタッチがあったんだけど、それでも一度も止まらないで弾けただけ凄いと思うよ。
なのに、ミスタッチする度に岩谷先生をにらんで、指揮をしてたんだ。
あれ、伴奏者としたら、相当へこむよ。
だったら最初から伴奏譜渡して欲しいって思うもん。
しかも最後に『お兄さんより全然弾けなくてがっかり』とか言ってたんだよ、あのおばさん!」
「そうそう、足手まといとか言ってた」
「先輩のクラスなんだけど、やっぱりHRでも文句言われながらやってるって聞いたよ」
……どうして、裕香がそこまで言われなくちゃならないんだろう。
でも、実習生の私は、先生方のことを悪く言う訳にはいかない。
ただ、黙って聞くしかなかった。
「マツケン、もっと岩谷先生をかばってやればいいのにさ」
そう言い出したのは、佐藤さん。
「私、昨日の夜、見ちゃったんだよね~。
岩谷先生とマツケンが二人で駅にいるとこ。
で、そのまま二人仲良く車に乗って、どっかに行っちゃったの」
「「「「えええ~~~!」」」」
みんな、色めき立って叫んでいた。
私は別の意味で叫んだけど。



