そっと頭を上げて、菫の顔を見ると。
怒ってる、というより、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「そっか、やっぱり、吉川君に私達の『仲良し』のこと、話しちゃったって認めるんだ」
正座したまま、答える。
「今更何を言っても言い訳にしか聞こえないと思うけど、俺はこんな風に言ったんだ。
俺達は、付き合って初めて仲良くなるまでに、長い時間がかかってる。
その間に沢山いろんな話をして、付き合うと決めた時には『結婚を前提に』と伝えた。
それだけ大事な彼女で、お互いの信頼関係もしっかりしていたから、初めての夜に彼女の口から『コウノトリ飛来回避措置をお願いします』っていう言葉が出てきたと思うって。
もちろん、俺はかなり前から用意してたってことも言った。
菫だって、きっとあの夜それを口に出すのは、ものすごく勇気が必要だっただろ?
場面緘黙症で内気なヴァージンであるはずの木内が、出来たてほやほやの彼氏に『避妊して』なんて言える訳がない。
つまり、吉川に自分の責任の重さを自覚させようと思って『オフレコ』でしゃべったんだ。
まさか、菫も木内に『コウノトリ飛来回避措置』の話をしていたとは知らずにな」
そこまで話した時、ジャズのメロディが菫のポケットから聴こえた。
軽く天井を向いて、目をしばたいた菫が携帯を取り出した。
「ちょっと先生、そのまま待ってて。
裕香から電話なの」



