「……その方がいい。

実習が終わるまで、プライベートでは会わない方が、お互いのためだ。

電話は今まで通りでいいから、何かあったら掛けてきなさい」



一瞬、意外な顔をした菫。


俺がそれを受け入れるとは思っていなかったんだろう。


一緒に過ごせた京都での2年間は、むしろ俺のほうが菫を離せなくなっていた。


けじめをつけようと『同棲』はしていなかった。


菫にはいつもからかわれた。


『先生ったら、同棲はしないなんて言いながら、これじゃあまるで、平安時代の妻問婚だよね』


なんて言ってたな。


平安時代の女流文学が大好きな菫らしい。


早く菫と結婚して、一緒に暮らしたいと思ってしまうのは事実だが。


菫はまだ大学4年生。


せめて社会人になるまで、待っていたい。


その前に、まずはこの実習を成功させて、いい思い出を作ってほしい。


他の実習生と同じ条件で、精一杯力を発揮してほしい。



きっと菫は解っている。


だけど、気持ちがついていかなくて、戸惑っているのも知っている。


彼女の大きな目から、涙がぽろぽろとこぼれ出した。