「あの僕、一応由月に声かけてきますね」

「でもあのコ、言い出したら聞かないわよ?」

「分かっていますけど、さっきのこと、謝りたいので…」

「気にしなくてもいいんだが…。雅貴は雅子と違って、繊細で優しい子だな」

「そういう兄さんの頑固は見事に由月ちゃんに引き継がれたわね」

「お前だって頑固じゃないか!」

「だってって言うなら、認めるのね!」

ああ、またはじまった。

僕は宙を飛ぶ物を避けながら、廊下に出た。

何とか記憶を頼りに、歩き進む。

だけど昼と夜とじゃ、邸の雰囲気が全然違う…。

「ううっ…。怖いなぁ」

それでも奥へ進むと、とある部屋から明かりがもれているのを見つけた。

「あっ、あそこかな?」

思わず早足で進み、襖の前に立つ。

え~っと、襖でノックするのはおかしい。

ここはやっぱり声をかけるべきだろう。

そう思って口を開くも、

「―何?」

中から不機嫌そうな由月の声。

「あっあれ? 僕だって分かった?」

「足音、ウチの家族以外の音だったから、分かるよ」

「そっそう。スゴイね!」

…っと、感心している場合じゃなかった。

「あの、ちょっと話があるんだ。部屋に入ってもいいかな?」