「悪いけど、一人にさせて?」

「ああ、分かった」


アパートのドアを開けると、ひんやりし空気に思わず身震いをした。

「じゃあね。元気出してね」

「小枝子もな。また来ていいか?」

「………ここへはもう来ない方がいいと思う」

「そっか…」

「そんな悲しい顔しないでよ」

小枝子が俺に顔を寄せ、「これが最後ね?」と言って、触れるだけのキスをした。

「小枝子…」

「でも、店には来て?」

「おお」

「紬ちゃんと一緒に」

「それはどうかな…」

「がんばりなさいよ」

「ああ。今までありがとう」

「私こそ」

小枝子は少しぎこちないけど笑顔だった。俺も、何とか笑顔になってたと思う。

帰り道、初冬の冷えた夜風に、俺は身が引き締まる思いがした。