波多野の冷たい指が、あごにかけられた。
ゆっくりと上げられて、優しくキスされる。
相当ひどい顔でもしてたのだろうか。
この男が自らキスするなんて、明日は嵐だ。
沸騰しかけの頭で、ぼんやりと考える。
柔らかく、熱い唇。
あたしを翻弄しては、突き落とす舌。
重なる蒸気のような、吐息。
…ああ。
あたしはもうこれ以上なんて、いらない。
波多野がキスしてくれるだけでいい。
波多野があたしをその綺麗な瞳にうつしてくれれば、いいの。
堪え切れずに強く舌を絡ませる。
一瞬ひるんだ波多野が、それを優しく制す。
「んぅ…」
段々苦しくなってきたが、唇を離したくない。
一生、この熱に溺れていたい。
あたしは強く波多野の首を抱き締める。
薄く目を開けてみると、至近距離で真っ黒な両眼があたしを見つめていた。
身体中の体温が上がる。
…コイツ、ずっと見てたんだ。
自分に浮かされる、あたしを。
波多野に欲情する、あたしを。
本当に、嫌な男だよ。
アンタは。
人に生殺しみたいなマネして。
嘲笑っているの?
下げずんでいる?
バカな女だと、思っているんでしょう?
間違いないよ。
アンタの言うとおり、あたしはバカ。
だって、アンタはあたしになびかないのに。
それでもこんなに求めてしまう。
期待をしてしまう。


