オレの唯一の楽しみは熊井由姫と会うこと。 あいつはいつも笑顔で強くて、 オレはそんな由姫が好きだった。 「ねぇねぇ、あそこ最近出来たケーキ屋なんだけど…」 手すりに掴まり、店を指差す。 すぐ隣に居て簡単に触れられる。 柔らかくなびく髪に誘われて、手を伸ばした。 でもその手は、由姫に気づかれる前に戻る。 オレは触れることができない。 ここに体はないのだから。