思えば、あたしはやっぱり、夢の中でも見事にごまかされていた。


あれじゃあ結局、アイチがどこに行っていたのかわからないままだ。


そんなことだから、アイチはあたしの前からいなくなってしまった。


目を覆っていた左腕をどかして、そのまま左手首を見た。


そこに付いた一本の傷は、一瞬にして気持ちを一年前に引き戻す。


最悪の目覚めを呼んだ携帯電話。


病院の廊下で告げられた事実。


逃げることしかできなかった情けない自分。


自ら切った左手首。


一年前の悪夢が鮮明に思い出されて、慌てて体を起こす。


一年前に飲み込まれることが情けないほど怖かった。


時計を見る。


午後6時32分。


夕飯の買い物に行こう。


そう思った時、それはまるで用意されているかのように、リビングのローテーブルの上にあった。


ゴールデンレトリバーのマスコットに付いた2本の鍵。


1本は自分の家のもの、もう1本は…



その鍵は昨日、自分がただそこに何気なく置いただけでしかない。


けれど、今のあたしにはまるで返しに行くために用意されているような気がしてならなかった。